STEP21 第3章 東京水道の現状と課題

3−1 水道需要の動向

 東京の水道需要は、年々増加を続けてきた。特に、昭和30年代後半から40年代にかけての経済の高度成長期には、人口や産業の首都圏への集中、給水普及率の上昇等により大幅な増加を記録した。
 しかし、昭和48年秋の第一次オイルショック以降、経済の低成長への移行や水需要抑制策の浸透等によって需要の伸びは鈍化しており、近年の一日最大配水量は、おおむね600万m³前後で推移している。

 今後の水道需要は、かつてのような急激な増加はないものの、過去の実績、核家族化の進行や多摩地区の都市化の進展等から推測すると、長期見通しとしては、緩やかな増加基調で推移し、一日最大配水量は、四半世紀の間には、おおむね650万m³程度になるものと見込まれる。

3−2 水源

 現在、東京都は近年の水道需要に見合う日量602万m³の水源を確保しており、水系別の内訳は、利根川水系日量464万m³(77%)、多摩川水系日量116万m³(19%)、相模川等日量22万m³(4%)である。なお、多摩地区で地下水などを予備的な水源として保有している。
 しかし、渇水の頻発など以下のような様々な課題を抱えている。
 また、今後の水道需要の増加に対応した水源の確保も必要である。

不安定水源の存在

 水源開発は、水源地域における生活再建問題の解決等に長期間を要し、当初の計画に対し大幅に遅れている。このため、既得水源の中には、利根川河口堰、霞ケ浦開発、霞ケ浦導水の水源のように水源施設等が未完成の状態で取水していることから、河川流況が悪化した場合に、他に先がけて取水削減を余儀なくされる不安定なものがある。

課題を抱える水源の存在

 既得安定水源の中にも、中川・江戸川導水路水源のように緊急暫定水利となっているもの、川崎市等から分水を受けている相模川の水源のように将来確保できなくなる可能性のあるもの、砧上・砧下浄水場水源のように河床の低下等により計画通りの取水ができないものなど、課題を抱える水源が含まれている。

頻発する渇水

 利根川水系では、1都5県の農業用水や都市用水などの水需要に対してダムなどの水源施設が不足していることから、近年、2〜3年に1回の割合で取水制限が実施されている。

利水安全度の低い利根川水系及び荒川水系

 利根川水系及び荒川水系の水源開発は、「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」に基づき進められているが、計画されている水源施設が全て完成した場合でも、利水安全度は1/5である。一方、淀川水系や木曽川水系など、大都市を抱える主要な水系では、利水安全度は1/10である。したがって、これらと比べて、利根川水系及び荒川水系は、計画上の利水安全度が低い状況にある。

 東京都は、水源の約8割を利水安全度の低い利根川水系に依存しているため、利根川水系の渇水の影響を受けやすく、給水に支障をきたす事態が起こりやすい状況となっている。最近10年間で5回の給水制限等を実施している。

[利根川の利水安全度について]
建設省関東地方建設局「利根川百年史」より抜粋
 大正7年から昭和39年までの47年間の流況により、(中略)各年のダム群の貯留量の過不足量を確率処理した結果、5分の1の安全度を確保しながら、ダム群貯留量がほぼ0となる昭和35年を基準渇水年とした。
[水源開発における利水安全度について]
建設省河川局開発課「主要地域が水道水源を依存している
河川のダム等の現況利水安全度について」より抜粋
 我が国における水資源の確保は、基本的に10年に1回程度発生する規模の渇水時でも安定的に取水できることを計画目標として、将来の水需要の増加に対してダム等の整備を行ってきています。
 (中略)主要河川の各地域では渇水の発生頻度が増大しており、利水の安全性、確実性が低下していると懸念されます。

水源の水質問題

 利根川水系などの水源河川は、流域の都市化や産業の発展、生活排水対策の遅れ等により、かび臭物質、アンモニア性窒素、農薬等の水質問題がある。また、地下水についても、微量有機物質等による汚染があるなど、水源水質は様々な問題を抱えている。

節水施策の強化の必要性

 水が貴重な資源であることから、広報活動による節水意識の高揚、節水型機器の開発と普及、漏水防止対策の推進、循環利用や雨水利用の促進などの施策を進めてきている。しかし、循環利用や雨水利用の普及状況は、使用用途が限られており、循環利用水量は、水道使用量の約1%にとどまっている。近年頻発している渇水の影響を軽減するためには、これらの節水施策をさらに強化していくことが求められている。

3−3 浄水施設

 近年の東京都の水道需要は、おおむね日量600万m³前後で推移している。区部は減少傾向、多摩地区は増加傾向にあり、全体の水道需要は横ばいないしは微増の状況である。これに対し、東京都は現在、日量696万m³の施設能力を保有しているが、施設の中には、老朽化・劣化した施設や運転管理の難しい施設がある。
 また、安全でおいしい水の供給が求められている中で、水質問題はますます複雑化してきており、浄水施設は、質・量ともに、以下のような様々な課題を抱えている。

施設能力の偏在

 多摩地区の水道使用量が増加してきているが、施設能力の約4割が東部付近の低地にあるなど、水道使用量の動向に合わない偏った施設配置となっている。

バックアップが困難な区域の存在

 水質事故や設備事故等の発生は予測できず、過去には2日以上もの長期間取水を停止した事故例もある。このような事故によって浄水場が停止した場合、区部では他の浄水場からのバックアップにより、水量は十分ではないものの給水することが可能であるが、多摩地区の小作浄水場や小規模な浄水所から給水している区域では、バックアップが困難な区域が存在する。

老朽化、劣化した施設の存在

 現在の施設の中には、老朽化や劣化が進み施設能力が低下した施設や、耐震性の強化が必要な施設が存在する。さらに、建設当時に比べ原水水質等も変化しており、当初の能力を発揮できない施設もある。
 このように、現在では日量696万m³の施設能力を保有しているものの、その能力をすべて発揮できる状況にはない。

 貯水、取水施設から浄水施設に至るまでの施設についても、老朽化・劣化状況や耐震性等を調査し、その結果に基づき、より一層信頼性の高いものとしていく必要がある。

大規模な更新・改造に必要な施設能力の不足

 現在、経常的な補修等の工事は、給水に影響を与えないように、冬期などの水道使用量の少ない時期に集中して実施している。これに加えて大規模更新や改造を行う場合には、長期にわたり大きく施設能力が低下することから、新たな対応が必要となっている。

 今後の高度浄水処理の導入等に当たっては、限られた敷地内に新たな施設を建設することになるため、浄水場の施設を一部廃止せざるを得ない状況も考えられる。その場合には、現在の施設能力を維持することが困難となるおそれがある。

集中する施設の更新時期

 金町浄水場、朝霞浄水場、東村山浄水場等の既存施設は、水道需要が急激に伸びた昭和30年代後半から40年代にかけて集中的に建設されており、既に30年から40年が経過している。
 今後、多くの施設が同時に更新時期を迎えることになり、施設能力の大幅な低下が避けられない。

運転管理が複雑で難しい施設の存在

 水道需要が急激に伸びた時期には、十分な施設能力を保有していなかったために、旧施設を稼働させながら拡張・改造を重ねてきた。金町浄水場などは、こうした施設整備の結果、新旧施設が混在し運転管理が複雑かつ難しい施設となっている。

求められる環境に配慮した施設

 地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊など地球規模の環境問題が深刻化しており、より一層環境に配慮した施設の整備が求められている。
 また、浄水場発生土や建設発生土等については、その一部は有効活用されているが、多くは埋立処分されている。このため、資源のさらなる有効活用が求められている。

複雑化する水質問題

 利根川水系の河川水質は、流域の急速な都市化や産業の発展等により水道水源として良好な状況にはない。今後も生活排水対策等の遅れから早急な改善は期待できない見通しである。

 このため、下流域に位置する浄水場では夏期にはかび臭対策が、また、冬期にはアンモニア性窒素や陰イオン界面活性剤(合成洗剤の成分)対策が必要となっている。この他にも、トリハロメタン等の消毒副生成物の低減化も必要である。
 また、病原性微生物であるクリプトスポリジウムによる集団下痢が他都市において発生するなど、新たな問題も出てきており、今後、農薬や新たな化学物質が問題となることも考えられ、水質問題が複雑化してきている。

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クリプトスポリジウム
 ヒト、動物(ウシ、ブタ、ニワトリなど)に寄生する原虫の一種である。大きさは4〜5マイクロメーターで、熱と乾燥に弱いが、塩素消毒に対する抵抗力は極めて強く、免疫力の弱い人が感染すると下痢症等をおこす。
 感染事故例としては、1984年にアメリカのテキサス州での集団発生、1987年ジョージア州での大規模流行事例などがあり、1993年にミルウォーキーでは40万人もの発症者を出し100人以上が死亡に至った。

 平成4年に微量有機物質を中心に水質基準の拡充・強化が行われ、また、水質基準を補完するものとして、快適水質項目や監視項目が新たに定められた。今後も、複雑化する水質問題に対応するため基準の強化が予想される。

水道水質に対するニーズの高度化・多様化

 各種のアンケート調査に示されているように、水道水質に対し不安感を持っている都民は少なくない。また、ミネラルウォーターや浄水器の利用者の増加にもみられるように、安全でおいしい水の供給への都民の要望は高い。

 東京都では、金町浄水場の一部に高度浄水処理を導入し、かび臭対策等に成果を上げており、現在、三郷浄水場においても一部に高度浄水施設を建設中である。
 水質問題の複雑化に対応し、安全でおいしい水を求める都民のニーズに応えるため、高度浄水処理の導入をさらに進めることが求められている。

 平成8年度第2回水道モニターアンケート(水質管理と「おいしい水」について)
実施時期:平成8年9月 調査対象:水道モニター 100人(回収率100%)

3−4 送配水施設

 東京都は、これまで、安定給水を確保するため給水所や送配水管路等の整備に努めてきた結果、現在、主要給水所30箇所、送配水管約22,000kmを有している。しかし、事故時におけるバックアップ機能の不足や、渇水や震災時等における給水の確保など、以下のような様々な課題を抱えている。

相互融通機能の不足

 浄水場や給水所間を結ぶ管路整備を進めてきたが、事故時等における相互融通機能がいまだ十分とはいえない状況にある。
 特に、東南幹線は、区部南部で一部整備されていないため、十分な相互融通ができない状況にある。また、多摩地区では、低地から高地へ向かって管路が樹枝状に形成されており、効率的な水運用ができない地域がある。

給水所の受け持つ配水区域が広大

 給水所が不足し、かつ偏在しているため、一つの給水所の受け持つ配水区域の大きさにアンバランスがある。配水区域が広大な金町系区域や城北線系区域などでは、ポンプや管路等の事故時に断水や濁水の影響が、広範囲に及ぶことがある。

 一つの配水区域内に、地盤の高さが大きく違う地域があるため、極端に水圧の低い地域と高い地域が生じている。水圧の低い地域では渇水時における給水制限の影響が大きくなることが懸念され、逆に水圧の高い地域ではウォータハンマや漏水等の問題が生じている。

配水池容量の不足と偏在

 事故時や震災時における給水の安定性を確保するためには、配水池容量が十分ではなく、また、地域的にも偏在している。

水運用における課題

 取水から送配水に至る水運用については、水運用センターが運用計画の策定と運用状態の監視を実施している。しかし、給水所等の運転・調整は水運用センターからは直接行えず、浄水場や支所を経由して実施している。
 東京都のような、巨大な配水ネットワークを管理していくためには、水運用計画の策定から運転・監視に至る総合的な水運用管理が不可欠であり、効率的な運用や、事故時等における、より迅速な対応に大きな課題を残している。

地震による管路被害

 当局では送配水管路に材質強度の高いダクタイル鋳鉄管や鋼管を採用してきており、平成8年度末現在、配水管のダクタイル化率は91%となっている。阪神・淡路大震災では、ダクタイル鋳鉄管は普通・高級鋳鉄管に比べ被害率が低く、ある程度の耐震性は確認されたが、継手の抜け出しが多数見られたことから、新たな対応が求められている。

震災時における復旧の困難性

 地震により被害を受けた場合、配水区域が適切な規模に区切られていないため、影響範囲が大きくなる。また、被害箇所の特定が難しく、復旧に時間を要することが懸念される。

困難な震災時の飲料水確保

 阪神・淡路大震災では、飲料水や生活用水を確保するために、被災者は、長蛇の行列や長距離運搬など不便を強いられた。
 当局では、半径2kmの範囲内に1箇所の応急給水の拠点を整備することを目標とし、現在、都内に172箇所の給水拠点を整備しているが、さらに、大震災を教訓とした、よりきめ細かな給水拠点の整備が求められている。

3−5 給水設備

 給水設備は、使用者に最も身近な部分であり、生活に密着したものである。このため、給水設備に対しても多様な都民ニーズがある。一方、使用者である都民と当局との認識の違いに起因する問題点も多い。
 給水設備に関しては、保健衛生上、また漏水防止及び震災対策上、以下のような様々な課題を抱えている。

給水設備に対する多様な都民ニーズ

 高齢化の進行や情報化の進展、またライフスタイルの変化等から、給水設備に対する都民のニーズは高度化・多様化している。このような社会動向に十分配慮した給水サービスの展開が求められている。

実態に合わない給水装置の管理区分

 給水装置は使用者等の財産であり、給水条例では使用者等が管理することとなっている。
 しかし、給水管のほとんどは地中に埋設されており、特に道路下の給水管の管理を使用者等が行うのは極めて困難である。このため、配水管分岐部からメータまでの漏水修理や漏水の未然防止等は、当局がサービスの一環として行っている状況であるが、管理のあり方が問われている。
 また、使用者等が給水装置の管理区分を正しく認識していない状況にあり、情報提供も十分とはいえない。

[給水設備]
 ここでは、
1.配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水器具(給水装置)
2.受水タンク及び受水タンクから給水栓までの給水器具(受水タンク以下の給水設備)の両者を指す。

小規模受水タンクでの水質劣化

 中・高層の建物では、受水タンク方式により給水している場合がほとんどである。
 受水タンク以下の給水設備は、使用者等が責任をもって管理することとなっており、規模の大きな設備については、水道法及び建築物における衛生的環境の確保に関する法律により管理が規定されている。
 しかし、都内全域で18万箇所ある有効容量10立方メートル以下の小規模受水タンクは、清掃や水質検査などが法令で義務付けられていないこともあり、管理不備に起因する水質劣化等の問題が懸念されている。

一層の普及が求められる増圧直結給水方式

 増圧直結給水方式は、中・高層建物へ受水タンクを経由せずに給水する方式であり、浄水場でつくられた安全でおいしい水を直接供給できる。
 東京都では平成7年10月に増圧直結給水方式を導入し、平成9年3月末現在の実施状況は1,093件である。
 受水タンクでの水質劣化等の問題が無くなることから、この方式を今後さらに普及させることが求められている。

老朽化した給水管の存在

 震災対策上、給水管の材質改善が急務であることは、阪神・淡路大震災の被害状況からも明らかである。
 これまで公道下を中心に、漏水防止対策及び震災対策として給水管のステンレス化を進めてきているが、老朽化した給水管が未だ5分の1近く残っている。
 また、私道内に複数本布設されている給水管の整理統合は、一部にとどまっている。

 宅地内や私道内に残存する鉛管等老朽化した給水管についても、材質改善が急がれている。

 口径75mm以上の給水管の材質改善は進んでおらず、老朽化したものが残存している。

記事ID:081-001-20240819-006333